原木栽培の一年

当園の原木栽培は、
道をつくり、木を伐ることから始まります。

8月下旬~10月

道づくり。

原木の伐採をする前に、まずは山の作業道を確保しなければなりません。
20年も人や車が通らない原木林は、雑木や笹などが生い茂り、ところどころ風倒木が道を塞いでいます。
この時期には、蜂が巣をかけているので、用心しながら作業を進めます。
できる限り奥まで四輪駆動車が入れるように作業道を整備します。

原木以外を伐る。

原木栽培には、クヌギやナラといった椎茸の栽培に適した原木を使いますが、その原木を伐採する前に、原木以外の雑木を伐り倒す「除伐」という作業を行います。
崖上の斜面は足場が悪く雑木も多くて苦労しますが、後々の作業を効率よく行うために必要な作業なのです。

「にく丸」の準備。

春と秋に収穫する中低温性品種「にく丸(にくまる)」のほだ起こし時期です。
「ほだ起こし」とは、駒打ちして2年間山で育成した原木「ほだ木」を、収穫する場所「ほだ場」に持ち帰る作業です。
足場の悪い斜面を登り降りしながら、1万本を超えるほだ木を、運搬車に積んで慎重に山から搬出します。

一方ほだ場では、新しいほだ木を入れる場所を準備します。
まず、ナタで数年発生した古ほだを削ってシイタケ菌の状態を見ながら選木し、廃ほだは運搬車で搬出して、山の肥やしにします。

そして、杭や線を修理したほだ場にほだ木を立て、椎茸を収穫します。

11月

原木の葉が、
色付き始めたら。

除伐を終えた原木林の伐採は、原木の葉が色付き始めたのを確認して行います。
これは、春に新芽を出すために栄養分を蓄えたというサインで、これがシイタケ菌が原木内に伸長するのに必要な栄養となるのです。

伐採地は標高の高い山が多いですが、毎年数ヶ所の原木林を伐採するので、時には線路際で作業することもあります。
ちょっとしたことが事故や怪我につながるので、ロープを張るなど安全対策を取りながら慎重に伐採を行います。

葉を枯らして、
乾燥させる。

伐採後は、葉がついた状態で伐り倒したまま山で40〜60日間放置しておきます。
シイタケ菌は、木材の細胞が生きている状態では伸長しないので、葉がついたまま原木の水分を抜く「葉枯らし」をします。
これにより、シイタケ菌の生育に適した状態になるのです。

「にく丸」の季節。

朝が14℃以下になると、秋前にほだ起こしした「にく丸」が収穫できるようになります。

秋は気温が高いので、採れ始めたら霜が降りるまで毎日収穫が続きます。
ちなみに九州では椎茸を「なば」と言い、椎茸を収穫することを「なば採り」と言います。

収穫後は、
24時間乾燥。

椎茸は、傘、足、ヒダとそれぞれ性質が異なるため同時に乾燥するのは難しいです。
品種や傘の形状や水分、気温や湿度でも条件が変化します。
当園では、外形が固まってから回転式の薪兼用乾燥機に移し、約24時間かけてじっくりと仕上げるやり方で乾燥させています。

乾しいたけは加工食品ですから、加工(乾燥)の仕方で美味しさに差が出るのは当然のことなのです。

椎茸の乾燥にはたくさんの燃料が必要となるので、乾燥シーズン前に薪を割って準備しています。
また、乾燥を終えた乾椎茸は、内張りがブリキの木箱に入れ、一年中一定の温度・湿度が保たれた部屋で保存しています。

この保管箱は、祖父の代より大切に使っています。
乾物は、上手に保管することが美味しさの秘訣です。

12月

「春光」の準備。

2月~4月に採れる低温性品種「春光(はるみつ)」のほだ起こしが始まります。
椎茸の発生には、低温刺激が必要です。
春光は、5℃以下に気温が下がって霜が2~3回降りた頃が適期です。

1月

忙しくなる前に、
道の補修作業。

春光のほだ起こしが終わると、秋に伐採した原木を栽培しやすいように短く切る「玉切り」と、原木にシイタケ菌を打ちつける「駒打ち」といった山での作業が忙しくなります。
その前に一仕事です。

作業現場の道は雨が降るとぬかるんで4輪駆動車でも滑って坂を上れなくなります。
地面が固まってるうちに、砂利を道路に敷き詰めて道を補修していきます。
作業道やほだ場の道は、大雨で砂利が流されてしまうので、常に補修が必要です。

ほだ木に、
刺激を与える。

細いほだ木は1~2年が寿命ですが、クヌギの太い木は3~5年目でも椎茸は発生してくれます。
古いほだ木は、新ほだに比べ出にくくなるので、椎茸の発生を促すためほだ木を倒して刺激と与える「ほだ倒し」を行います。

倒した時に、ゴツンゴツンとほだ木同士がぶつかる刺激と雨を吸いやすい体勢にすることで、椎茸の発生を促します。

時には天地返し。

芽が早々に出始めてほだ倒しができない年は、ほだ木の上下をひっくり返す作業「天地返し」で刺激を与え、ほだ木内の水分を均一にして発生を促します。

寒風から、
椎茸を守る。

ほだ場ではスプリンクラーで散水をしていますが、吹きっさらしの状態では椎茸の水分が寒風によって奪われ、枯死してしまうことがあります。
そこで、風避けに防風ネットを張り風の当たりを弱め、椎茸の保湿に努めます。

雨から、
椎茸を守る。

「春光」の収穫が始まる前に、傘状の支柱を用いた雨よけ「傘っこ」を立てて準備します。
椎茸の発生に雨は必要ですが、収穫時期の余分な雨は品質の低下になります。
ビニールを張るのはまだ先ですが、天候が急変しても対応できるよう準備します。

2月

「春光」の季節。

「春光」が発生する季節です。
低温で乾燥した日が続くと、表面が乾燥した傘の内部から押し上げるように椎茸が生育するので、亀裂が生じます。
花柄(傘の亀裂)が入った椎茸は良質で高級とされ、見た目も華やかです。
袋を掛けることで、雨に濡れず丸みの強い椎茸になります。

芽が出揃っていれば、傘っこにビニールを張れば早いのですが、ばらつきがある時期は一つひとつ袋を掛けて対応します。
過去には、2万枚の袋を掛けたことがあります。

ビニールで、
雨除け。

「春光」の芽が出揃ってきたら、傘っこにビニールを張ります。
2月は暖かい雨が降りやすいため、季節予報(1ヶ月予報)を見ながらタイミングを見計らって、ビニールを張っていきます。

収穫が終わると、ビニールをはぎ雨に当てて次の発生に備えます。
少量ですが、4月までパラパラ収穫できます。

3月~5月

「にく丸」の季節。

暖かくなると、中低温性品種「にく丸」の季節です。
気温が高くなると生育が早く、芽が出たかと思えば直ぐ収穫できるようになります。
山の作業と並行して、入れ替わり立ち替わりでにく丸の収穫・乾燥作業を行います。

本格的な、
山での作業開始。

天気が安定し始めたら、秋に伐採して葉枯らしをしていた伐採現場で本格的に「玉切り」と「駒打ち」の作業です。
山の現場は、尾根あり迫(小さな谷)ありで平坦ではありません。
迫は窪地ですから湿気が籠りやすく、年によっては湿性の害菌が出やすいのです。

そのため、現場の地形に合わせて害菌が発生しないように作業を進めます。
後々の作業のこと考えて玉切りした原木は両脇の斜面に投げ出し、迫はポンと空けておきます。

一山玉切りをしては駒打ちをし、次の山へ移動しては玉切りと駒打ちする。
これを数ヶ月、ひたすら繰り返します。

しばらく、
笠木で伏せる。

伐採現場で駒打ちを終えた原木は、一旦寄せた後、直射日光を避けるための笠木(木の枝)をかけて「仮伏せ」をします。
寄せることで湿度が上がり、原木・種駒の乾燥を防ぎ、シイタケ菌の活着・初期蔓延を促します。

「与一丸」の準備。

5月になると、椎茸栽培場では夏出し品種である「与一丸(よいちまる)」の準備が始まります。
ほだ木の作り方は、「春光」と「にく丸」とは異なり、夏出し品種は冷たい水(18℃以下)にほだ木を浸けることで椎茸を強制的に発生させます。

繰り返し水槽に浸水して椎茸を発生させるので、扱い易いよう曲りの少ない中くらいの太さの原木を使います。

4個のドリルがぶら下がった機械で孔をあけ植菌します。
夏出し品種には、菌まわりが早いおがくず菌を固めた成形駒を使ってます。
木の駒は金づちでコンコン叩きますが、成形駒は指で孔に押し込むだけです。

6月~8月中旬

原木を組み直す。

仮伏せの状態でもシイタケ菌は伸長しますが、夏になると加湿状態で湿気を好む害菌も発生しやすくなります。
そこで風通しを良くするため、大きな原木を鳥居状に組み、中小径木を鳥居の上に乗せていきます。
直射日光をさえぎるため、再度笠木で覆い翌年の秋までほだ木を育成します。

九州地方では、伐採現場で駒打ちし本伏せすることが多いため、本伏せのことを「野伏せ」と言います。
野伏せは、温度が摂れやすく木材を分解する酵素が良く働いて、熟度の高いほだ木になります。

草の下刈り。

山に本伏せした入れ木(ほだ木を組んだもの)は、2年目になると草に覆われてしまいます。
こうなると、木を組んでいても風通しか良くありません。
急斜面を上り下りしながら草を刈って風通しを良くします。
このような管理で、害菌の発生を抑え、農薬をいっさい使わず栽培しています。

「与一丸」の季節。

夏出し品種「与一丸」は、浸水・収穫・休養(20日程度)を繰り返しながら椎茸発生舎に立てて収穫します。
夏出し品種の浸水・発生は、露地物の椎茸が出るまで続きます。

そして、また8月下旬。
次の原木伐採予定地の道づくりが始まるのです。

山の再生

伐採した木の伐り株から、若々しい芽(萌芽)が芽吹きます。
15年から20年ほど経つと、また伐採できるくらいに大きくなります。
私たち「なばやま(椎茸を栽培する人)」は、原木を伐って椎茸を栽培していますが、山の再生にも一役かっているのです。